恩返しをしてみた。 ~創造主物語④~
私の友人に「創造主」と呼ばれる男がいた。
無から有を、生命をもつくりだす。
それが彼の想像主たるゆえんだ。
そんな彼と冬にドライブしていた時のこと。
雪が吹き溜まりになっているところで突然車があらぬ方向へ回転した。
ゆっくりと、ひどくゆっくりと。
走馬灯、、、これが走馬灯か
運よく車や歩行者にぶつかることなく、シングルアクセルで田んぼへ華麗に着氷。
田んぼといっても脇の小高い部分だったので、押せば何とかなる。
「さあ、押せ!」
彼はびしょびしょになりながら車を押してくれたが、微動だにせず。
「ボブサップじゃないと無理っす」
彼は言った
当時貧乏だった我々はJAFを呼ぶのも憚られ途方に暮れていた、その時だった。
一台のトラックが脇に停まった。
「なんだお兄ちゃん、動けなくなっちまったのかい?」
運転手はそういうと大雪の中、ロープをトラックと私の車に結び、引き上げてくれた。
びしょ濡れになりながら。
さすがにここまでしていただいて、お礼をしないわけにはいかない。
そう思い、薄っぺらな財布を取り出したとき、
「そんなもんいいよ、ありがとう、ってその言葉だけで十分だ」
そうひとこと言い残し、笑顔でトラックは走り去った。
子供のころ、憧れている人やこうなりたい人を聞かれたことがある。
今なら迷わず言える。私はあのトラック運転手になりたい。
絶対次にこのシチュエーションになったら同じことをする。
それがあの人に対する恩返しだ。
数年後の夏のある日、バッテリーが上がって路上で動けなくなっているおじいちゃんが居た。
チャンス!
私は車を押して安全な場所に誘導し、ブースターケーブルを繋いで充電してあげた。
この時のためにケーブルを買っておいてよかった。
ここだ、ここで数年間秘めていたこの台詞だ
「いいですよ、ありがとう、だけで十分です」
「いいからいいから貰っとけ!」
おじいちゃんは無理やり私に3000円を握らせ、走り去った。
私が言いようのない不完全燃焼感に打ちひしがれたことは言うまでもない。