コバエと人類について考察してみた。 ~創造主物語②~
私の友人に「創造主」と呼ばれる男がいた。
無から有を、生命をもつくりだす。
それが彼の想像主たるゆえんだ。
もうかれこれ15年以上前になるが、私は彼と同棲していた時期があった。
彼は無精者で、テレビに出るようなゴミ屋敷の域には達していないものの、家の中は荒れ放題。かくいう私も多くの物に囲まれると安心するタイプであったため、それを悪しとしなかった。
そして遂にある夏の日、彼はその能力をいかんなく解放した。
大学の夏休みは長い。
1ヶ月ちかく家を空けて帰った日のことだった。
鍵を開ける彼。私が後ろで待っていた、その時・・・
「ずァあ”ぁぁぁぁぁ!」
声にならない声を上げ、開けた扉を閉める彼。
「居ます 何かが居ます」
彼は言った。
「バカ、そりゃあまっくろくろすけ、っつんだ。またの名をすすあたり・・・」
そう言って扉を開けた私に向かって飛び込んでくる多数の黒い飛行体。
イメージしていたまっくろくろすけよりはかなり小さく、そして速い。
ザ・フライ
「いやーハエですね、これは」
彼は言った。
そんなことは分かり切っている。
いま我々がやらねばならんのは、この先住民を撃退し平穏な日々を取り戻すことだけだ。
数は100や200では利かず、1000も超えていようかという勢い。
「ねずみ算じゃなくてハエ算の方が合ってますね」
彼は言った。
「でも語呂を考えるとコバエ算の方がいいだろう」
私は言った。
それはともかく、コバエ算を上回るスピードで撃退を進めなければ、この家は
腐海に飲み込まれてしまう。
「飛翔能力、反応速度ともにパーペキ・・・まさにハイテク戦闘機ね」
かくして、コバエ掃討作戦が決行されることとなった。
標的が小さいことに加え、残像を肉眼で確認できるほどの反応速度。射程圏外からの長距離射撃では太刀打ち不可能で、我々は白兵戦用兵器で対抗する他なかった。
ハエたたき、スリッパ、段ボール、ガムテープ・・・
ありとあらゆる手段を尽くし、人類 VS ハエ の戦いが始まった。
ハエの血で染まるガラス。
「目標をセンターに入れて…スイッチ。目標をセンターに入れて…スイッチ。目標をセンターに入れて…スイッチ。」
30分も過ぎると思考回路は停止し、意志を持たぬ殺戮兵器となった。
しかしそれでもきりがない。
「私が死んでも変わりはいるもの」
とばかりに次から次へと湧いてくる使途。
ここでようやくその発生源を突き止めた。それは、数あるゴミ袋のひとつだ。今までどうして気づかなかったのか、というくらいに次々と袋の中から飛び立ってくる。
「逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。」
封鎖した生命のスープたるゴミ袋の中で飛び回るおびただしい数のハエ。
その後、3時間の格闘の末、ようやく全ての目標が沈黙。
私「生命を生み出しておいて、全て殺すとは何とバチ当たりな。」
彼「何度も危機を乗り越えたからこそ今の人類があるんです」
私「だから?」
彼「ハエにもそのような試練が必要と思います」
あくる朝、2匹のハエが仲良く飛んでいた。
「アダムとイブですね」
彼は言った。
その後結婚した彼は本当のアダムとイブとなり、新たな生命を生み出し幸せな毎日を送っている。